科学検定

お知らせ

【科学ニュース】体内の微生物叢で個人特定、プライバシーに問題も

人の体内でコロニーを作るマイクロバイオーム(微生物叢全体)を“DNA”として考えると、個人を特定できるという研究が発表された。指紋ならぬ“腸紋”と呼べるかもしれない。

Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)誌に5月11日付で公開された研究では、体内のマイクロバイオームを調べることでその個人を特定でき、その人の健康状態や栄養状態、民族性を識別できる可能性があるとしている。また4月29日にGenome Research誌に発表された研究によると、米国立衛生研究所(NIH)が保管し一般公開しているマイクロバイオームDNAには、既に潜在的に個体識別可能なDNAが含まれているという。

PNASの論文によれば、同じ集団内でも個々人には大きな違いがあり、その違いは時間が経過してもあまり変わらず、集団内で個人を区別する微生物による“指紋”をひとりひとりが持っているという。腸内マイクロバイオームの場合、100人の被験者の中で80%以上は1年後でも個人を特定できたとしている。

これらの論文では対象のマイクロバイオーム保有者の個人名を挙げておらず、また現時点ではそれは困難とも述べているが、マイクロバイオーム研究ではこの点に注意が必要だと提案している。

ヒトゲノムの研究者は長年、プライバシーの問題に取り組んできた。2013年に、ある研究者チームは国際的な「1000 Genomes」プロジェクトの匿名参加者のDNAを、年齢・居住地・ファミリー名を含む家系データベースと相互参照することで、5人を指名することができた。

近年、マイクロバイオームが人の健康と振る舞いに与える影響はホットな研究トピックとなっている。人のマイクロバイオーム研究から得られるデータは公開状態で保管される傾向があるが、マイクロバイオームが長期的に個人の特定に有効なのかは明らかでなかった。

NIHのヒト・マイクロバイオーム・プロジェクト(HMP)の公開データを使ったPNAS 5月11日発表の研究で、ハーバードT.H.チャン・スクール・オブ・パブリック・ヘルスの計算生物学者カーティス・ハッテンハワー(Curtis Huttenhower)氏のチームは、腸、口内、皮膚、膣などからサンプルを採取し、微生物的な遺伝子マーカーが個人間で時間を経ても特有であるかどうかを調べた(このプロジェクトでは個人を名前で特定はしていないが、参加者の最初のサンプルと数週間または数カ月後のサンプルを比較することができた)。

最も確実なマイクロバイオーム・サインは便のサンプルで、ある人の最初のサンプルは2回目のサンプルと86%で一致が確認された。一方、皮膚のサンプルは精度が低く、4分の1程度しか一致が見られなかった。

しかしハッテンハワー氏は、「たった1回の研究のマイクロバイオーム・データから何かできると考えるのは無理がある」と話す。プライバシーに関して最も生じやすい障害は、例えば2つの別のマイクロバイオーム研究に参加した被験者の付随情報(年齢や健康状態)が関連付けられてしまうような場合だとハッテンハワー氏は考えている。

マイクロバイオームは必然的にヒトDNAと混同されやすく、プライバシーも危険にさらされることになる。NIHはHMPデータベースからヒトDNAの情報を取り除くことにかなりの時間をかけているが、ローレンス・リバモア国立研究所の計算生物学者ジョナサン・アレン(Jonathan Allen)氏のチームが調べたところ、いまも“汚染”は残っているという。

マイクロバイオームから個人を特定できる確率は低いとはいえ、研究者はプライバシーの保護のために何らかの措置をとる必要があると、ニューヨーク・ゲノム・センターのヤニフ・エルリッヒ(Yaniv Erlich)氏は言う。エルリッヒ氏は自身の研究で、1000 Genomeプロジェクトの参加者5名を特定している。

一方で、過剰反応が続くとマイクロバイオームに対する理解が遅れることにもなる。NIHの国立ヒトゲノム研究所の政策責任者であるローラ・ロドリゲス(Laura Rodriguez)氏は、HMPデータベースからヒトDNAを可能な限り取り除くなどの保護施策がとられているのであれば、「科学に付け加える価値があるのだから、オープン・アクセスを維持してゆきたい」と述べている。

【情報ソース】

PNAS - Identifying personal microbiomes using metagenomic codes
http://www.pnas.org/content/early/2015/05/08/1423854112

Genome Research - Using populations of human and microbial genomes for organism detection in metagenomes
http://genome.cshlp.org/content/early/2015/04/29/gr.184879.114

1000 Genomes
http://www.1000genomes.org/

Nature News - Microbiomes raise privacy concerns
http://www.nature.com/news/microbiomes-raise-privacy-concerns-1.17527

facebooktwitter広告2