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【科学ニュース】RNAを操作する新たなCRISPRツール

CRISPR-Cas9技術は遺伝子編集に革命をもたらし、DNA配列の一部を削除、追加、変更することによりゲノムの部分的な編集が可能になった。この技術は2002年にCRISPR((Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)と命名されて以来、CRISPRを使用した記事がPubMed(医学・生物学分野の文献検索サイト)に4800件以上掲載され、この3年間は採用率も急上昇している。

しかしCRISPRは完全ではなく、「オフターゲット効果」のため、時には望ましくない変異を引き起こすことがある。今回、2つの新しい研究が発表され、塩基配列中の1文字単位で変更を可能にした遺伝子編集技術が示された。分子の切り貼りは不要だという。

DNAの二重らせんを切り貼りするのではなく、ブロード研究所とMITの研究チーム、およびハーバード大学の研究チームはそれぞれ、RNAをターゲットとした。DNAとRNAは、化学的に密接な関係を持つ“親類”だが、構造も機能も異なる。DNAはデオキシリボース糖から成るが、RNAはリボース糖から成る。DNAは、遺伝情報の保存と伝達を担う、謂わば遺伝子の青写真である。一方RNAは、個々のアミノ酸を直接コードする二次コピーとして働く。研究チームは、RNA配列中の個々の文字を正確に変更できるようになれば、疾患の要因となる変異を逆転(無効化)できるのはないかと考えた。

デイビッド・リウ(David Liu)氏率いるハーバード大学チームはNature誌上で、“塩基編集”という新たな遺伝子編集技術を提示した。CRISPRはDNAを切り貼りしてゲノムを変更する“分子ハサミ”のように使うものとすれば、塩基編集は鉛筆と消しゴムのように使うものだとリウ氏は言う。言い換えると、塩基編集ははるかに鋭敏なゲノム変更手段である。ただし、CRISPRには今後も重要な役割があるという。

◆死に至る“誤字”

塩基対(ヌクレオチド対)の形成規則では、A(アデニン)は常にT(チミン)と、C(シトシン)は常にG(グアニン)と対になる。リウ氏らは、「A」塩基をターゲットとして、「G」として読み取られるイノシンの塩基に変更する酵素を作製した。すると、この細胞のDNA修復機構は、Tが存在するギャップをまたいでDNAの相補鎖を“修復”しようとした。その結果、最終的にA-TからG-Cへの変換が行われた。

この種の文字の置き換えは、自然界では常に起こっており、定常的に人の疾患を引き起こしている。頻繁に起こるGからAへの変異は、局在関連てんかん、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、パーキンソン病の症例に関与しているとされる。リウ氏によれば、病原性の点突然変異(1塩基置換)は、3万2000例のうち約半数でG-CからA-Tへの変異を跡づけることができるという。

ブロード研究所とMITの研究チームがScience誌に発表したもうひとつの論文では、A-G変換の別の経路を採り上げている。研究チームは別のアデノシン・デアミナーゼ酵素を、RNAに働く変異ゲノムエディターであるCRISPR-Cas13に挿入した。ここで使われた酵素はPspCas13bと呼ばれ、プレボテラ属細菌由来でRNAの不活性化に最も有効であることが分かっている。この新しいCRISPRベースのシステムをチームは、“REPAIR”(RNA Editing for Programmable A to I Replacement)と呼んでいる。

上級著者のフォン・チャン(Feng Zhang)氏は、REPAIRには、周囲のヌクレオチド配列に関わらず、病原性のG→A変異の影響を逆転することができ、どのタイプの細胞でも作用する潜在的な能力があると述べる。さらに、DNA編集による変更が永続的であるのに対し、REPAIRによる変更は可逆性があるという。

「REPAIRは、ゲノムを改変せずに突然変異を修復でき、RNAは自然に分解されるため、それは可逆的な修復となる」と、チャン氏の研究室に所属する大学院生デイビッド・コックス(David Cox)氏は話す。

両者のアプローチはともに先鋭な手法だが、最も重要なのは遺伝子編集に可逆的なアプローチが出現したことだ。CRISPR-Cas9の主要な問題点は、切り貼りにではなく修復にあり、塩基の追加や投げ入れが時には望ましくない変異を引き起こすことがあることだった。しかし、RNAの修復では確率論的に挿入や削除が起きることはないため、RNAを操作することでこの問題を回避できる。CRISPRの恐ろしい結果が潜在的になくなることで、遺伝子治療が大幅に成長する道が拓かれる。塩基の欠損に起因する遺伝的疾患が根絶され、新たなタイプの薬剤が登場する可能性がある。そのためには、体内の適切な組織に塩基編集機構を送り届ける最適な方法を見つける必要がある。研究者はそれに先立って膨大な仕事をしているが、将来はさらに激しさを増しそうだ。

共同筆頭著者でチャン研究室およびブロード研究所のコア研究員アビブ・レゲブ(Aviv Regev)氏の研究室に所属するジョナサン・グーテンバーグ(Jonathan Gootenberg)氏は、「これらの酵素には、自然の膨大な多様性がある。われわれは常に、(遺伝子編集を含む)こうした変更を自然の力を借りて行うことを求めている」と話している。

【情報ソース】

Nature - Programmable base editing of A・T to G・C in genomic DNA without DNA cleavage
https://www.nature.com/nature/journal/vaap/ncurrent/full/nature24644.html
doi:10.1038/nature24644

Science - RNA editing with CRISPR-Cas13
http://science.sciencemag.org/content/early/2017/10/24/science.aaq0180
DOI: 10.1126/science.aaq0180

Science - Novel CRISPR-derived ‘base editors’ surgically alter DNA or RNA, offering new ways to fix mutations
http://www.sciencemag.org/news/2017/10/novel-crispr-derived-base-editors-surgically-alter-dna-or-rna-offering-new-ways-fix

MIT - Researchers engineer CRISPR to edit single RNA letters in human cells
http://news.mit.edu/2017/researchers-engineer-crispr-edit-single-rna-letters-human-cells-1015

MIT Technology Review - CRISPR 2.0 Is Here, and It’s Way More Precise
https://www.technologyreview.com/s/609203/crispr-20-is-here-and-its-way-more-precise/

ZME Science - New CRISPR tools target RNA rather than DNA. They could fix ‘typos’ responsible for half of all genetic diseases
https://www.zmescience.com/medicine/genetic/crispr-rna-gene-editing-0432432/

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