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【科学ニュース】イルカにアルツハイマー病発見、治療に新たな道?

アルツハイマー病にかかるのは人間だけではなかった。オックスフォード大学を中心とする研究チームは、イルカがアルツハイマー病および2型糖尿病に罹患することがあることを発見した。これらの疾患は、寿命が長いことの結果であるとも考えられる。

一見すると、ヒトとイルカほど違いの大きい動物はいない。ヒトは地上に住むがイルカは海で暮らし、ヒトには手足があるがイルカはヒレを持っている。しかし、少し深く見ようとすれば、たくさんの類似点があることがわかる。両者は複雑な社会的なグループを作る哺乳類であり、ともに複雑な発声を使って交信し、そして高い知能を持っている。今回、研究チームはこうした共通性を広げる、退行性疾患という新たな側面を見出した。

オックスフォード大学医学部精神医学科の老年精神医学者サイモン・ラブストーン(Simon Lovestone)教授は、過去の研究をレビューして他の動物がどのくらいの頻度でアルツハイマー病に罹患するのかを調べたが、どの種についても発症の証拠は見つからなかった。

「ヒト以外の脳でアルツハイマー病の明確な兆候が見つかるのは非常に稀だ」とラブストーン氏は話す。同氏は国立健康研究所(NIHR)で認知症の研究にも携わっている。「野生動物の脳で、アルツハイマー病に関係する蛋白質のプラークと“もつれ”のこれほど明白な証拠が見つかるのは初めてのことだ」。

ラブストーン氏は、イルカでアルツハイマー病の証拠を実際に見つける前に、鯨類には潜在的にアルツハイマー病の好発性があることを認識していた。

「イルカが認知症になると予測できる可能性についてサイモン(・ラブストーン)が話すのを聞いたとき、われわれの協力者にイルカを研究していた人がいたんだ。セレンディピティの瞬間だった」と、セント・アンドリューズ大学のフランク・ガン・ムーア(Frank Gunn-Moore)教授は話す。

ヒトとイルカにはもうひとつ、やや独特な共通点がある。繁殖力が低下したあとでも、長く生き続けることだ。動物は全般的に、寿命全体の長さとは関係なく、繁殖年齢を過ぎてから長くは生きない傾向がある。これは競争環境では意味があり、子孫を増やせなくなれば、種にとっての有用性は限定的となる。しかし、ヒトとイルカはこれと異なる。男女ともに40歳を超えると繁殖力は急速に衰えるが、ヒトは100歳を超えても生きることができる。似たようなプロセスが、イルカ(およびシャチ)でも起きている。

研究チームは仮説を実証するために、スペインの岸辺に打ち上げられたイルカの脳を分析した。特に、アミロイドβという蛋白質のプラークと、タウと呼ばれる別の蛋白質のもつれをイルカの脳内で調べた。これらはアルツハイマー病の主要な特徴だが、その両方が漂着したイルカの脳で特定された。

研究チームは、インスリンがこのプロセスに直接的に関係していると考えている。インスリンは血中の糖濃度を制御し、身体に大きな影響を与える化学反応の複雑な連鎖プロセスを開始する。例えばあるマウスの研究では、極端なカロリー制限はインスリンのシグナリング(信号伝達)に影響を与え、マウスの寿命を最大300%まで延長することが示された。これが鯨類にも当てはまるとすれば、アルツハイマー病(および、おそらくは糖尿病)は長寿の結果である可能性がある。

「ヒトにおけるインスリン・シグナリングは、マウスにごく僅かなカロリーしか与えないことで人工的に作り出された仕組みと似たかたちで機能するように進化したと考えられる」とラブストーン氏は述べる。「それは繁殖年齢を過ぎたあとの寿命を伸ばす効果をもたらすが、同時に糖尿病やアルツハイマー病にかかりやすくもなる。以前の研究で、インスリン抵抗性が高いことでアルツハイマー病の発症が予測され、また糖尿病を患っている人はアルツハイマー病を発症しやすいことが示されている」。

「しかしわれわれの研究は、イルカと(やはり繁殖年齢後の寿命が長い)シャチは多くの面でヒトに近いことを示唆している。イルカとシャチは、インスリン・シグナリング系を持つことから糖尿病の興味深いモデルであり、今回はイルカの脳にヒトの場合と同様なアルツハイマー病の兆候が現れることを示した」。

イルカのアルツハイマー病がヒトと同じような現れ方をするかどうかは、まだ分かっていない。アルツハイマー病の患者に見られるような記憶障害などの問題でイルカも苦しんでいるかどうかは、野生のイルカを研究しなければ判断できない。研究チームは、捕獲されたイルカで研究を実施しようとは考えていない。

しかしこれは、アルツハイマー病の新しい治療法の開発には重要な意味を持ちうる。初期段階では脳の損傷はほとんどなく、治療の標的を特定するのが困難なことから、脳内の患部の治療を行うのは非常に難しい。だが、アルツハイマー病がインスリン・シグナリングと関係していることから、その関係を詳しく研究することで、アルツハイマー病治療のまったく新しい道筋が開ける可能性がある。

この研究結果は、Alzheimer’s & Dementia誌で発表された。

【情報ソース】

Alzheimer's disease in humans and other animals: A consequence of postreproductive life span and longevity rather than aging
http://www.alzheimersanddementia.com/article/S1552-5260(17)33717-2/pdf
doi.org/10.1016/j.jalz.2017.08.014

University of Oxford - Dolphin brains show signs of Alzheimer’s Disease
http://www.ox.ac.uk/news/2017-10-23-dolphin-brains-show-signs-alzheimer%E2%80%99s-disease

ZME Science - Dolphins can also get Alzheimer’s, surprising new study finds
https://www.zmescience.com/medicine/mind-and-brain/dolphin-alzheimers-disease-25102017/

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