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【科学ニュース】アカバ湾のサンゴ、海水温上昇で成長が促進!?

グレートバリアリーフをはじめ世界の多くのサンゴ礁が、海水温上昇のために死につつある。

しかし、独特な進化史をもつ紅海北部のサンゴ礁は、汚染から守ることができるなら、さらなる水温上昇が予想される今世紀後半も生き延び、今以上に繁栄さえする可能性があるという。

サンゴは、夏期数週間の最高温期に水温が1度上昇すると、そのストレスでポリプ内の共生藻を排出する。これが白化と呼ばれる現象で、元に戻る場合もあるが、長く続くとポリプ自体も死に至る。

しかし紅海北部、シナイ半島東側のアカバ湾に多く生息するあるサンゴは、現在の最高温期より2度高い水温でも増殖できることがわかった。このショウガサンゴ(Stylophora pistillata)のサンプルを採取し、2050年から2100年に予想されるストレス環境下で6週間飼育したところ、現在を上回る速さで成長するのが観察された。

研究は、スイスの連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とローザンヌ大学、イスラエルのバル・イラン大学および海洋科学研究所(InterUniversity Institute for Marine Sciences)の共同研究チームによって行われ、研究結果はRoyal Society Open Science誌に発表された。

「このサンゴは白化しなかった。共生藻の健康状態は、むしろ向上していた」と、EPFLのトーマス・クルーガー(Thomas Krueger)氏は話す。

ショウガサンゴは世界の他の海域にも生育するが、アカバ湾以外では高温への耐性を持つものはない。アカバ湾の個体群が示す頑健さの基礎となっている生物学的なメカニズムはまだ明らかでないが、研究チームは耐性の獲得に至った経緯を次のように推測している。

「アカバ湾のサンゴは、紅海の特殊な地理的条件と最近の歴史的条件のために高温環境に前もって順化できていた」と、バル・イラン大学と海洋科学研究所のマオズ・フィネ(Maoz Fine)氏は述べる。

最終氷期の間、世界中の海水面は現在より120メートル低く、紅海は他の海から閉ざされていた。そのため塩分濃度が高まり、サンゴの多くは死滅した。氷期が終わると海水面は上昇し、紅海は南端で再びインド洋と接続する。サンゴも、水温が非常に高かった南部から繁殖を再開し、次第に北上して増殖した。ここで、南端のインド洋からの入口付近は夏期の最高水温が30~32度まで上昇する水温上のボトルネックとなり、選択的障壁として働いたことで、高温耐性の強い個体だけが北上を許されることになった。

現在の夏期最高水温が27度前後になる紅海北部に生育するサンゴは、最高水温が30度を超えることもあった環境を生き抜いたサンゴの後裔なのである。

これは、紅海北部のサンゴは高温への耐性が備わっており、夏の最高水温が通常より数度上昇しても生き延びられることを示唆している。

しかしこれを確かめるような実験は、小規模なものがわずかに実施されたのみだった。その中でクルーガー氏らのチームによる実験は最も意欲的なもので、アカバ湾に面したエイラートにある海洋科学研究所に設置された“紅海シミュレータ”と呼ぶ室外の水層群を使って行われた。

「実験で設定した温度はかなり極端だったが、それでもサンゴを生き続けた」と、グレートバリアリーフでサンゴ白化の調査を続けてきた豪ジェームズクック大学のテリー・ヒューズ(Terry Hughes)氏は述べる。

驚くべきことに、このサンゴは今世紀後半に予想される海洋の酸性化による影響も受けないことがわかった。その理由はわからないと、クルーガー氏は言う。

これらの結果は、世界の小さな一部分であるアカバ湾のサンゴについては楽観的でいられる理由にはなる。しかし、研究自体はサンゴ1種を調べたのみで、繁殖の成功率やサンゴ礁の生態系全体への影響については検討されていない。

今回の研究は、紅海北部のサンゴ礁が今後も健全であることを保証するものではない。その理由のひとつは、このサンゴ礁が他の海域とまったく同じように汚染に敏感であることだ。サンゴ礁は、水温上昇には耐えられるとしても、廃水や産業廃棄物は容易にサンゴを死滅させうる。

「石油の流出、養魚場の過剰な栄養、農場の除草剤といった地域の汚染要因は、アカバ湾リーフの例外的に高い耐性を損ないかねない」とフィネ氏は話す。

理論的には、紅海北部のサンゴ礁が他より長く生き続けるのなら、荒廃したサンゴ礁を再生する移植株の供給源となることができる。しかし、塩分濃度の高い紅海のサンゴが、他の海でも健全に生育できるかどうかはわからない。

またたとえ生育可能だとしても、求められる規模でサンゴを移植することに実現可能性が高いとも思われない。「(世界規模のサンゴの移植に)必要な労力は、途方もないレベルだ」と、英バンゴア大学のガレス・ウィリアムズ(Gareth Williams)氏は述べる。

地球の温暖化の進行がもっと緩やかなら、世界中のすべてのサンゴ礁にも適応するチャンスがあるかもしれないが、そのペースは速すぎる。「われわれはサンゴに、非現実的な速さで適応し進化してくれと頼んでいるようなものだ」とウィリアムズ氏は話している。

【情報ソース】

Royal Society Open Science - Common reef-building coral in the Northern Red Sea resistant to elevated temperature and acidification
http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/4/5/170038
DOI: 10.1098/rsos.170038

EPFL - Coral reefs in the Gulf of Aqaba may survive global warming
https://actu.epfl.ch/news/coral-reefs-in-the-gulf-of-aqaba-may-survive-globa/

New Scientist - Corals that grow faster in warm water could beat climate change
https://www.newscientist.com/article/2131313-corals-that-grow-faster-in-warm-water-could-beat-climate-change/

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